選択のパラドックスとは
選択のパラドックスとは、選択肢が多ければ多いほど不幸を感じやすくなるという心理効果、認知バイアスのことです。
本来、より自由で合理的な選択をするためには「選択肢は多ければ多い方が良いはず」なので、矛盾していますよね。具体例をみてみてみましょう。
- レストランのメニュー数
メニューの選択肢が増えるほど、最適な選択をするためには、細かい違いを比較する必要があります。その結果として満足度が低下してしまいます。 - オンラインショッピング
商品の選択肢が多すぎると、比較に時間がかかり、検討が難しくなります。結果として満足度が低下して、最終的に購買意欲が減退することすらあります。
このように「選択肢が多すぎて選ぶのが大変だ…」と悩む方は多いのではないでしょうか。
例えば、仕事選びにおいても以前は「家業を継ぐだけ」とシンプルでしたが、いまは幅広い業界職種から選択しなくてはなりません。
選択肢が増えると選ぶハードルが上がる
従来は「選択肢が多いほど人は自由で幸せである」とされてきましたが、選択肢が多くなると下記のようなデメリットが生じてしまいます。
- 選択する時に、より多くの時間と処理が必要になる
- 選択した後も「他の選択肢の方が良かったかもしれない」という後悔が残る
選択肢が増えることで、自由度だけでなく情報処理や比較の難しさまであげてしまいます。そのため、損をしないよう吟味しようとして、脳が疲れてしまうのです。
補足:認知バイアスとは
認知バイアスとは、常識や固定観念、また周囲の意見や情報など、さまざまな要因によって、誤った認識や合理的でない判断を行ってしまう認知心理学の概念です。
バリー・シュワルツが提唱(2004年)
2004年、アメリカの心理学者バリー・シュワルツ(Barry Schwartz)が著書『The Paradox of Choice』で発表しました。翌年にはTEDに出演しています。
選択のパラドックスの具体例
ここでは選択のパラドックスの具体例をいくつか紹介していきます。特に、生活が豊かになればなるほど、未来の選択肢は多くなりますからね。
- 仕事編
- 就職先の選択
- 担当プロジェクトの選択
- 副業の選択
- 日常生活編
- 技術書や参考書の選択
- マッチングアプリでの選択
- 接待やデートのレストランの選択
近年、選択肢が増えたからこそ、選択のパラドックスを感じる機会が増えているのではないでしょうか。簡単に解説していきます。
選択のパラドックスの具体例#1
就職先の選択
就活を経て、仮に10社から内定を得たとします。どの会社も、人事、先輩との話が合い、ビジョンや事業内容、仕事に共感できているものとしましょう。
しかし、就職先は1社しか決められないので、数字で表せない要素で天秤にかけて「どこに就職すべきか」という“答えのない問い”に挑む必要があります。
最終的には1社選び、選ばれなかった9社には内定辞退の連絡をすることになりますが、実際に働くまでは「本当にこれでよかったのか」と悩み続けるかもしれません。
選択のパラドックスの具体例#2
配属先・担当プロジェクトの選択
新入社員として、あなたは人事から10個のプロジェクトを提案され、どれを担当するかを選択しなければなりません。各プロジェクトは魅力的で、それぞれ異なるスキルを磨く機会があります。
しかし、すべてのプロジェクトを同時に行うことは非常に困難で、1つだけしか選べないとしたら、どれを選ぶべきかで悩むことでしょう。さらに、選んだあとも「選ばなかった選択肢」を捨てたことに後悔するかもしれません。
選択のパラドックスの具体例#3
副業の選択
あなたは本業の他に副業を始めるとします。ただ、世の中にはたくさんの副業が溢れているので、どれを選択すべきかに悩むことでしょう。
そして、選ばなかった選択肢で成功している事例を聞くと「やっていればよかった」とあとで後悔するかもしれません。
選択のパラドックスの具体例#4
参考書や技術書の選択
大学受験の時の参考書や、SNSやブログを学習したいと思った時の書籍の選択においても、選択のパラドックスは機能します。
本屋へ行くと、同一カテゴリごとに大量の書籍が並んでいるので「どれを選ぶのが正解なのか、どれが一番良いのか」と悩んだ経験のある方は多いでしょう。全部の書籍を一通り読み、比較してから購入できればベストですが、それにはかなりの時間がかかります。
なので「売れ筋ランキング」や「おすすめ」の表示があると選びやすいですよね。特に、電子書籍はその表示が容易なので選びやすいかもしれません。
選択のパラドックスの具体例#5
マッチングアプリで誰と会うか
あなたには現時点で恋人がおらず、マッチングアプリを利用しているとしましょう。そして仮に、異性からすごくモテるとします。
しかし、数多くの異性から連絡が来ると「どの人に返信をするか」「誰と会うか」を選ぶ必要があります。すると判断が難しくなり、選択に疲れ、アンインストールしたくなるかもしれません。
最終的に、一人の異性を選んだとしても時間を共にする過程で「やっぱり違うな…あのときサヨナラした○○さんともっと話せばよかった…」と後悔するかもしれません。
選択のパラドックスの具体例#6
接待やデートのレストランの選択
レストランを選択する時も、選択肢が多いと大変です。それこそ重要な取引先との接待や、初めて会う異性とのデートなどですね。
比較サイトが当てにならないこともあるので、いくつか候補を洗い出して、慎重に内装や料理の質を見極める方が多いのではないでしょうか。選択疲れに繋がります。
このお店なら大丈夫、というリストをいくつか持っておくと、あとはそこから選ぶだけになるので楽になりますね!
認知バイアスを緩和するポイント
認知バイアスの原因は「経験や直感からくる思い込み」にあるので、対処すれば、一定は軽減できます。※ただ、人間である以上、全てを防ぐのは不可能です。
- 認知バイアスへの理解を深める
- 認知バイアス診断で思考の癖を知る
- 批判的に考え、第三者の意見を取り入れる
順番に解説していきます。
認知バイアスを緩和するポイント①
認知バイアスの理解を深める
まず、認知バイアスの存在を知らなければ、防ぎようがありません。あなたがAIではなく人間である限り『なにかしらのバイアスはある』という認識を持ちましょう。
仮に「自分だけは大丈夫」と思っているのであれば、それこそがバイアスです。
認知バイアスを緩和するポイント②
認知バイアス診断で思考の癖を知る
次は、自身が「どういったバイアスを持ちやすいのか」という思考の癖を知ることをおすすめします。ミイダスで診断可能ですね。(記憶だと、無料でできる診断は唯一のはずです。)
▼ミイダスで診断してみよう
ミイダスはもともと、転職市場価値を診断できるアプリですが、「バイアス診断ゲーム」をはじめとした心理学系の診断がいくつかあります。誰でも登録できるので、興味があれば試してみてください。
認知バイアスを緩和するポイント③
批判的に考え、第三者の意見を取り入れる
認知バイアスに陥るのを防ぐために「なにごとも疑ってかかる」「自分と異なる意見を取り入れる」ことが重要です。 例えば以下のようにですね。
- 何が事実で、何が解釈か
- 別の観点から考えると、解釈は変わるか
- どのような反対意見があるか
このように、さまざまな角度から複眼的にとらえることができれば、認知バイアスに陥りにくくはなります。いわゆるクリティカルシンキング(批判的思考)というものですね。
第三者の意見を取り入れるのもおすすめです。利害関係がなく、都合が悪いことも率直に伝えてくれる相手にしましょう。
他の認知バイアス【一覧と具体例】
認知バイアスは『様々な理由で認識が歪んでしまい、事実を正しく認識できずに不合理な(事実でない)認知をしてしまう傾向』を総称したもので、いくつもの種類があります。
認知バイアス | 説明・具体例 |
---|---|
正常性バイアス | 自分に都合が悪い事実を信じない、現実を見ない 例:連帯保証人になったら友達が音信不通に。でもきっと大丈夫! |
確証バイアス | 自分の信念を裏付ける情報を探し求め、それ以外を見ない 例:大好きな彼氏はココが良い!ココも素敵! |
生存バイアス | 現在、生存している事例(成功例)しか見ない 例:成功した起業家を分析して、失敗例を見ない |
後知恵バイアス | 過去の事象に「それは予測可能だった」と勘違い 例:そのじゃんけん、チョキなら勝てるってわかったよね? |
自己奉仕バイアス | 自身に好意的な認識を持ちやすい傾向がある 例:成功は自分の能力が高いおかげ。失敗は外部環境のせい |
自己中心性バイアス | 自分を基準に、他者の心情や認知を推察する 例:自分の価値観を押し付ける、相手目線で考えられない |
感情バイアス | 感情的な好き嫌いが意思決定に影響を与える 例:性能は悪いが、つい好きなブランド商品を買ってしまう |
投影バイアス | 自分の好み、感情、価値観を他人に投影して認識する 例:まわりの人も自分と同じ意見、感情だと思い込む |
一貫性バイアス | 他者の1行動に一貫性があると思い込む 例:さっきナンパしてきた人、絶対いろんな女子に声かけてるよね |
保守性バイアス | 新しい情報を取り入れて、考え方や行動を変えることに躊躇する 例:革新的な新技術が出ても、使わず、従来のやり方に固執する |
バーナム効果 | 曖昧な特徴でも、自分に強く該当すると思い込む効果 例:占い師「あなたは◯◯な人間ですね」→そうかも! |
ハロー効果 | ある事象への評価が、他の目立った特徴に引っ張られる効果 例:清潔感がない人は、仕事もできなさそうだし性格も悪そう |
ダニングクルーガー効果 | 能力の低い人ほど自分を高く評価しやすい心理効果 例:もうこのゲームはコツ掴んだな!オレ最強かも! |
コンコルド効果 | 過去の投資を惜しんで、追加投資をやめられない効果 例:UFOキャッチャーを取れるまでやってしまう |
バンドワゴン効果 | 多くの人々が支持する意見や行動に信頼感を抱く効果 例:子どもが、他のみんなと同じオモチャを欲しがる |
フレーミング効果 | 同じ情報でも伝え方によって受け取り方が異なる効果 例:電池残量が「残り50%もある」と「残り50%しかない…」 |
アンカリング効果 | 最初に提示した情報が基準となり、その後の認識に影響を与える効果 例:商品の値下げ(大きく下がっているとお得に感じますよね?) |
アンダードッグ効果 | 不利な立場の負け犬を同情・応援したくなる効果 例:バレンタインに縁がなさそうな人にチョコをあげたくなる |
クレショフ効果 | 2枚の関係ない写真に、意味的な繋がりを感じる効果 例:「野菜」「不機嫌な人の顔」→野菜が嫌い? |
バックファイア効果 | 信念に反する情報を提示すると、裏目になる効果 例:大好きな彼氏を批判されると、かえって愛情が増す、守る |
真理の錯誤効果 | 繰り返された情報を真実だと思い込む効果 例:「最高品質」と効果を連呼するTVCMを繰り返しみて信じる |
リスキーシフト | 集団の中だと、よりリスクの高い意思決定をしやすくなる効果 例:赤信号、みんなで渡れば怖くない |
錯誤相関 | 二つの事柄に、相関関係があると錯誤(思い違い)すること 例:雨男/雨女、アイスの売上と溺死数 |
根本的な帰属の誤り | 他人の行動の場合、外部要因を過小評価してしまう傾向 例:遅刻の原因で、状況要因を考慮しにくい(性格のせいにしがち) |
アロンソンの不貞の法則 | 知らない人からの褒め言葉を、より嬉しく感じる法則 例:家族よりも、他人から認められると嬉しい |
代表性ヒューリスティック | ある対象の判断を、既知概念の代表的特性との類似性で判断する 例:「尻尾が丸い動物」→「うさぎかな?」 |
可用性ヒューリスティック | ある判断をするとき、すぐに思い出せる事例や情報から判断しやすい 例:馴染みのものや、人気ブランド、記憶に浮かぶ商品を選びがち。 |
選択のパラドックス | 選択肢が多ければ多いほど不満を感じやすくなる 例:レストランのメニュー、料金プランの種類など |