コンコルド効果とは
コンコルド効果とは、これまで投資してきた「回収できていないコスト」を惜しむあまり、さらなる投資をやめることができない認知バイアスです。
特に有名な例だと、UFOキャッチャーで「あと少しで取れるから!」と、景品が取れるまでやり続けてしまうことですね。他には下記のものがあります。
- 当たるまでパチンコ台から退けない
- 口説きたい女性への貢ぎものを辞められない
- 副業ブログで100記事書いたけど売上が出ない。けど辞められない。
- 新製品の開発に多大な資金を投じたので、ヒットしなくても投資をやめられない
このように、将来の損失を回避するために、すぐ止めるべきだったとしても「ここでやめたら、もったいない!」と、過去の投資を惜しんでやめることができないのです。
別名「コンコルド錯誤」「コンコルドの誤り」「埋没費用効果」「サンクコストの誤謬(ごびゅう)」とも呼ばれ、日常的に陥りやすいことが知られています。

人やモノ、サービスへの「金銭的・時間的・精神的な投資」を行い続けることで、さらに損失となると気づいているけど、止められないんですよね。
補足:認知バイアスとは
認知バイアスとは、常識や固定観念、また周囲の意見や情報など、さまざまな要因によって、誤った認識や合理的でない判断を行ってしまう認知心理学の概念です。
名前の由来:超音速旅客機コンコルド


世界規模で商業的失敗を遂げた超音速旅客機「コンコルド」が名称の由来となっています。1960年代に開発が始まり、世界初の超音速旅客機として、世界中から注文が殺到しました。
しかし、多くのデメリットが浮き彫りになったことからキャンセルが相次ぎ、開発を継続しても利益は望めないことまでわかりました。
- 開発コストや維持費の高さ
- 燃費の悪さ(当時はオイルショックもあり)
- あまりにも高すぎる価格
- 収容可能人数の少なさ
- 設備投資の必要(長い滑走路)
しかし、これまでにかけた莫大な埋没費用を惜しんだために、プロジェクトが途中終了されることはありませんでした。結局機体は16台しか製造されず、さらなる大赤字になったのです。
補足:親の投資理論
アメリカの進化生物学者であるロバート・トリヴァース(Robert L. Trivers)が1972年に提唱した「親の投資理論」から起こる議論が、コンコルド効果の元になった、とされています。
親の投資理論とは「子孫を繁栄させる(目的)ために、子を育てる(投資)」という理論で、生物学における前提として、多くの議論がなされてきました。
例えば、とある動物に2匹の子どもがいて、その2匹の成長に差があった場合では、下記の異なる2つの主張が展開されていました。
- 親は子を死なせないために、大きな子を優先して守り、育てる
- 子の数を最大化させるためには、小さな子をひいきする傾向が進化する
このように「親の投資理論」に関するいずれの主張でも「子を育てること」が投資で、「子孫を繁栄させること」が利益として考えられています。
こういった議論を経て、生物学上の「親の投資理論」の説明をベースとして、経済学における「埋没費用」と「人の判断」との関連性が言及されるようになりました。
ちなみにこの「埋没費用」とは、事業や人、ものごとに投資した資金や労力といったコストのうち、これらを撤退、縮小、中止しても回収できないコストを指します。(別名:サンクコスト)
コンコルド効果の代表的な具体例
コンコルドの効果を説明するものとしてよく挙げられる例を2つ紹介します。
では見ていきましょう。
例1:つまらない映画を見続けるか


仮に1,800円を払って映画を見始めたものの、10分後に「つまらない」と感じたとしましょう。このとき経済学的に判断をすると、埋没費用である1,800円は除外して、以下の思考になるはずです。
- 見続ける(これから映画が面白くなる可能性に賭ける)
- 退出する(別のことで有意義な時間に過ごす)
しかし、実際は「1,800円」を含めた判断、つまり「見続ける(お金がもったいないから)」と思ってしまう人が実に多いのです。
例2:紛失したチケットを再度購入するか
こちらは少しややこしいですが、1,800円を出して映画のチケットを購入したあと、紛失してしまった場合はどうでしょう。
再度チケットを買い直すとしても、経済学的な判断基準は「この映画には1,800円の価値があるかどうか」という部分に変わりはなく、もともとは1,800円の価値があると判断をして買ったチケットなので、「再度購入する」というのが合理的な判断と言えるでしょう。
しかし、人は埋没費用を考慮するため、2回目のチケット購入時は「この映画に3,600円の価値があるかどうか」と価値を上乗せした不合理な判断をしてしまう人が多いのです。
コンコルド効果の具体例
旅客機製造のような大規模な埋没費用でなくとも、映画館の例のようにコンコルド効果はわたしたちの生活においてしばしば影響を及ぼします。
例えば、投資や、ビジネス(新規プロジェクトの進行や土地開発など)、入試(これまでの努力と志望校の偏差値において)など、さまざまな場面でコンコルド効果は起こりえます。
他にも以下のようなシーンで起こり得ます。
- ゲームへの課金が止まらない
- ギャンブルで負け続けても、なかなか台から離れられない
- 別れたくても、かけた時間を無駄にしたくなくて、別れられない
- スポーツで成績が出なくても、引退を踏み切れない
- 商売で赤字が続いても、店を畳めない
- 戦争で犠牲を払いすぎて引くに引けない
ではそれぞれ簡単に紹介していきます。
ゲームへの課金が止まらない


スマートフォンにおける「ガチャ」というシステムは聞いたことがある人も多いでしょう。
簡単にいえば「くじを引いて、ランダムに特典(ゲーム内で使用するカードやキャラクター、アイテムや装備品など)がもらえる」というものです。
もちろん無料ガチャもありますが、ほとんどは有料課金と併用されていることが多く、無料ガチャは課金を煽る目的のために導入されています。
ガチャで引くことのできるレアな特典は、「天井」と呼ばれるシステムによって上限額まで課金をするとはずれが続いても必ず入手できるように定められているのですが(これは「景品表示法」の規制によるものです)、それでも天井に届くまでには数万円はかかることがしばしばあります。
このガチャが、コンコルド効果の「これまで1万円使ったから当たるまで引かないともったいない」といった心理状態を招き、わかってはいながらも、やめられないのです。
ギャンブルで負け続けても、なかなか台から離れられない


パチンコやスロットなどで負け続けても
- ここまで粘ったのだからもうちょっと続けよう
- 今までの負け分をどうにかして取り戻すまではやめるわけにいかない
と、なかなか台から離れられない心理がまさにコンコルド効果によるものです。
ガチャのシステムがギャンブルに似ていると感じたことのある人は多いかと思われますが、まさにその通りです。
別れたくても、かけた時間を無駄にしたくなくて、別れられない


これは金銭ではなく「時間」を主なコストとした場合です。
別れたいと内心思っていても、「これまで一緒に過ごした時間の長さを無駄にすることになる」と後ろ髪を引かれて関係を継続してしまう場合はやはりコンコルド効果に該当します。
恋愛ではありませんが、ナイトクラブやホストクラブなどで「この人に何十万円も費やしたから今さら通うのをやめられない」という声がしばしば聞かれるのも同様です。
スポーツで成績が出なくても引退を踏み切れない


怪我などで成績を残せなくなってもなかなか引退に踏み切れない選手などがまさに該当します。
練習やトレーニング、本番に情熱を注いで生きてきた人たちにとって、競技をやめるという決断は苦渋のものでしょう。
これも、これまで費やしてきた時間を埋没費用として捉えているためです。
商売で赤字が続いても、店を畳めない


赤字が続いているにもかかわらず、初期費用やこれまでのランニングコストがもったいないと考えて店を畳むことをどんどん先延ばしにしてしまうケースです。
事業がうまくいく算段が立っていないのに継続してしまい、借金に借金を積み重ねて破産してしまうケースもあるでしょう。
戦争で犠牲を払いすぎて引くに引けない


日常生活で起きないことを祈りますが、「これまで多くの犠牲を払ってきたのだから」と自ら争いをやめられない国が組織的にコンコルド思考に陥っている例です。
認知バイアスを緩和するポイント
認知バイアスの原因は「経験や直感からくる思い込み」にあるので、対処すれば、一定は軽減できます。※ただ、人間である以上、全てを防ぐのは不可能です。
- 認知バイアスへの理解を深める
- 認知バイアス診断で思考の癖を知る
- 批判的に考え、第三者の意見を取り入れる
順番に解説していきます。
①認知バイアスの理解を深める
まず、認知バイアスの存在を知らなければ、防ぎようがありません。あなたがAIではなく人間である限り『なにかしらのバイアスはある』という認識を持ちましょう。



仮に「自分だけは大丈夫」と思っているのであれば、それこそがバイアスです。
②認知バイアス診断で思考の癖を知る
次は、自身が「どういったバイアスを持ちやすいのか」という思考の癖を知ることをおすすめします。ミイダスで診断可能ですね。(記憶だと、無料でできる診断は唯一のはずです。)
▼ミイダスで診断してみよう


ミイダスはもともと、転職市場価値を診断できるアプリですが、「バイアス診断ゲーム」をはじめとした心理学系の診断がいくつかあります。誰でも登録できるので、興味があれば試してみてください。
③批判的に考え、第三者の意見を取り入れる
認知バイアスに陥るのを防ぐために「なにごとも疑ってかかる」「自分と異なる意見を取り入れる」ことが重要です。 例えば以下のようにですね。
- 何が事実で、何が解釈か
- 別の観点から考えると、解釈は変わるか
- どのような反対意見があるか
このように、さまざまな角度から複眼的にとらえることができれば、認知バイアスに陥りにくくはなります。いわゆるクリティカルシンキング(批判的思考)というものですね。



第三者の意見を取り入れるのもおすすめです。利害関係がなく、都合が悪いことも率直に伝えてくれる相手にしましょう。
他の認知バイアス【一覧と具体例】
認知バイアスは、『様々な理由で認識が歪んでしまい、事実を正しく認識できずに不合理な(事実でない)認知をしてしまう傾向』を総称したものなので、いくつもの種類があります。
認知バイアス | 説明・具体例 |
---|---|
正常性バイアス | 自分に都合が悪い事実を信じない、現実を見ない 例:連帯保証人になったら友達が音信不通に。でもきっと大丈夫! |
確証バイアス | 自分の信念を裏付ける情報を探し求め、それ以外を見ない 例:大好きな彼氏はココが良い!ココも素敵! |
生存バイアス | 現在、生存している事例(成功例)しか見ない 例:成功した起業家を分析して、失敗例を見ない |
後知恵バイアス | 過去の事象に「それは予測可能だった」と勘違い 例:そのじゃんけん、チョキなら勝てるってわかったよね? |
自己奉仕バイアス | 自身に好意的な認識を持ちやすい傾向がある 例:成功は自分の能力が高いおかげ。失敗は外部環境のせい |
自己中心性バイアス | 自分を基準に、他者の心情や認知を推察する 例:自分の価値観を押し付ける、相手目線で考えられない |
感情バイアス | 感情的な好き嫌いが意思決定に影響を与える 例:性能は悪いが、つい好きなブランド商品を買ってしまう |
投影バイアス | 自分の好み、感情、価値観を他人に投影して認識する 例:まわりの人も自分と同じ意見、感情だと思い込む |
一貫性バイアス | 他者の1行動に一貫性があると思い込む 例:さっきナンパしてきた人、絶対いろんな女子に声かけてるよね |
保守性バイアス | 新しい情報を取り入れて、考え方や行動を変えることに躊躇する 例:革新的な新技術が出ても、使わず、従来のやり方に固執する |
バーナム効果 | 曖昧な特徴でも、自分に強く該当すると思い込む効果 例:占い師「あなたは◯◯な人間ですね」→そうかも! |
ハロー効果 | ある事象への評価が、他の目立った特徴に引っ張られる効果 例:清潔感がない人は、仕事もできなさそうだし性格も悪そう |
ダニングクルーガー効果 | 能力の低い人ほど自分を高く評価しやすい心理効果 例:もうこのゲームはコツ掴んだな!オレ最強かも! |
コンコルド効果 | 過去の投資を惜しんで、追加投資をやめられない効果 例:UFOキャッチャーを取れるまでやってしまう |
バンドワゴン効果 | 多くの人々が支持する意見や行動に信頼感を抱く効果 例:子どもが、他のみんなと同じオモチャを欲しがる |
フレーミング効果 | 同じ情報でも伝え方によって受け取り方が異なる効果 例:電池残量が「残り50%もある」と「残り50%しかない…」 |
アンカリング効果 | 最初に提示した情報が基準となり、その後の認識に影響を与える効果 例:商品の値下げ(大きく下がっているとお得に感じますよね?) |
アンダードッグ効果 | 不利な立場の負け犬を同情・応援したくなる効果 例:バレンタインに縁がなさそうな人にチョコをあげたくなる |
クレショフ効果 | 2枚の関係ない写真に、意味的な繋がりを感じる効果 例:「野菜」「不機嫌な人の顔」→野菜が嫌い? |
バックファイア効果 | 信念に反する情報を提示すると、裏目になる効果 例:大好きな彼氏を批判されると、かえって愛情が増す、守る |
真理の錯誤効果 | 繰り返された情報を真実だと思い込む効果 例:「最高品質」と効果を連呼するTVCMを繰り返しみて信じる |
リスキーシフト | 集団の中だと、よりリスクの高い意思決定をしやすくなる効果 例:赤信号、みんなで渡れば怖くない |
錯誤相関 | 二つの事柄に、相関関係があると錯誤(思い違い)すること 例:雨男/雨女、アイスの売上と溺死数 |
根本的な帰属の誤り | 他人の行動の場合、外部要因を過小評価してしまう傾向 例:遅刻の原因で、状況要因を考慮しにくい(性格のせいにしがち) |
アロンソンの不貞の法則 | 知らない人からの褒め言葉を、より嬉しく感じる法則 例:家族よりも、他人から認められると嬉しい |
代表性ヒューリスティック | ある対象の判断を、既知概念の代表的特性との類似性で判断する 例:「尻尾が丸い動物」→「うさぎかな?」 |
可用性ヒューリスティック | ある判断をするとき、すぐに思い出せる事例や情報から判断しやすい 例:馴染みのものや、人気ブランド、記憶に浮かぶ商品を選びがち。 |
選択のパラドックス | 選択肢が多ければ多いほど不満を感じやすくなる 例:レストランのメニュー、料金プランの種類など |

