クレショフ効果とは
クレショフ効果とは「前後の脈絡がない映像や写真の羅列」に対して「前後のつながりを無意識に関連づけ、勝手に意味を解釈してしまう」認知バイアスです。
例えば以下の画像を見てみてください。

猫はどのような気持ちでしょうか?
- 猫がご飯を狙っている
- 猫がご飯を食べたがっている
- 猫がご飯を食べれず、いじけている
といったように「猫」と「ご飯」を関連づけて、猫の表情を解釈したら、それがクレショフ効果による影響です。本来、この2枚の写真には一切関係がありません。横に並べただけです。
このように、本来は関係のない写真の羅列に対して、無意識に関連づけて解釈してしまう、といった傾向をクレショフ効果と言います。

観た人の解釈を操作する強力なツールなので、TVCM等の広告で活用される事例が多いですね。
補足:認知バイアスとは
認知バイアスとは、常識や固定観念、また周囲の意見や情報など、さまざまな要因によって、誤った認識や合理的でない判断を行ってしまう認知心理学の概念です。
クレショフ効果の実験内容
クレショフ効果の実験では、被験者をグループ分けして、3種類の写真を見せた後に、男性(無表情)の顔写真を見せて、どう感じるかを検証しています。






そして、被験者には、それぞれの写真を見せて「男性がどのような感情を表していたと思うか」を回答してもらいます。もちろん男性は無表情で、3枚の写真とは全く無関係です。
ところが結果を見てみると、以下のようになりました。
- スープ→空腹、飢え
- 棺のなかの遺体→悲しみ
- ソファーに横たわる女性→欲望
このように「直前に見た写真と関連した感情が回答された」ということから、クレショフ効果の存在が実証されています。
また、この実験では写真が『順番』に呈示されてましたが、全く無関係な写真や絵を『同時』に見せられたときにも、同じような効果が生じることがわかっています。
クレショフ効果の具体例
「クレショフ効果」は、映画や広告、デザインの中によく活用されていて、特にわかりやすいのは、商品のパッケージや販促、企業のパンフレットやウェブサイトなどです。
実際に、静的な写真やデザインを使って、商品や事業内容などにできるだけよいイメージを与えようと、様々な試行錯誤が施されています。
ではそれぞれ解説していきます。
①ペットとペットフード


このように、猫とご飯の写真が一緒に写っているだけで、「クレショフ効果」が発動します。
- 猫がご飯を食べたがっている
- 猫が「この缶詰が食べたい」「このごはんを買って欲しい」と消費者に訴えかけている
というストーリーとして、この2つの写真を無意識に関連づけてしまうのです。
当然、猫のご飯を買おうとする人は、ほぼ100%猫を飼っていますから、プリントされた写真に自分自身の飼い猫を重ね合わせることでしょう。
そのため、その場にはいないはずなのに、自分の飼い猫が直接消費者に「食べたい!!」「買ってくれ!!」と訴えかけているように感じるのです。
ちなみに食べている画像だとそこまで訴求力はない


このように、実際に食べている画像だと訴求力があまりません。
これだと、「ネコがおいしそうに食べているな」とは思ってもらえますが、ネコの目線は盛られたご飯の中身に向いてしまい、消費者には訴えかける力がなくなってしまうからです。
そのため、世に出回っている猫のエサのパッケージのほとんどで、猫は正面を向いており、これはクレショフ効果によって訴求力を高めるためなのです。
②洗濯用洗剤のテレビCM


洗濯機用洗剤や柔軟剤のCMでは、洗濯物をなぜか『青空の下』で干している映像が多くあります。
そして、洗濯物に汚れた服はなく、大抵は新品の白いティーシャツかタオルが使用されていて、さらに洗剤や柔軟剤を洗濯機に投入している場面すらほぼありません。
このように、CMの映像では『現実』と全く関係のない洗剤や柔軟剤のパッケージやロゴ、タオルなどの洗濯物、謎の青空が繋ぎ合わされているものが大半です。
にも関わらず、CMを見る消費者は、
あたかもその洗剤を使って洗濯された服が干されていると認識し、まるで青空の下で干されて、爽やかに乾いていくように受け取ってしまうのです。
③ビールや酒類のテレビCM


ビールなど酒類のテレビコマーシャルも、「クレショフ効果」がふんだんに用いられています。
ただ、アルコールの宣伝には、未成年の飲酒防止や飲酒による健康への影響を鑑みて、広告には厳しい規制があります。
- 喉元を通る「ゴクゴク」等の効果音は使用しない
- お酒を飲むシーンについて喉元アップの描写はしない
- スポーツ時や入浴時の飲酒を推奨誘発する表現は避ける
こうした制限のなかでビールを飲んだあとの爽快感やおいしさをアピールするため、「泡」や「情景」などを活用して、各社が日々趣向をこらしています。
そのため、TVCMや電車の中吊り広告などを見かけた際には、「クレショフ効果」の視点で見てみると面白いかもしれませんね。
クレショフ効果の活用方法
「クレショフ効果」は、マーケティングやブランディング、対人関係づくりなど、イメージ戦略が功を奏すあらゆる場面で活用する価値があります。
ではそれぞれ見ていきましょう。
①マーケティング
例えば、同じハムを売り出すにも、伝えたいメッセージによって、その訴求方法は大きく変わるでしょう。
ハムが、イタリア製であることをアピールしたいなら、イタリアの町並や歴史的建造物の画像・映像と商品とを組み合わせるのがおすすめです。


また、高級感をアピールしたいなら、おしゃれな空間でワイングラスが輝いている画像と組み合わせるのが良いでしょう。


もっと日常的なイメージで購入してもらいたいならば、家庭の食卓やトーストの画像・映像と商品とを組み合わせるのも良い方法です。


このように、商品のアピールしたい特徴や、どのような場面で食べてもらいたいのかを決めると、その後の訴求イメージが自然と決まっていくでしょう。
②ブランディング


ブランディングに活用する場合、「美しさ」「解放感」「誠実さ」など、抽象的な概念を付与することになるため、
ブランドに付与したいイメージを明確にするのと同時に、多くの人が似たイメージを直感的に抱く、象徴的な画像・動画を探すことが鍵となります。
例えば、タンポポの花言葉に「誠実」がありますが、タンポポを見て誠実さを感じる人はほとんどいないので、ブランディング向きではないでしょう。
それよりも、雲ひとつない青空、真っ白いシャツを着て白い歯をのぞかせる爽やかな好青年、透明感のある女優さん、などの方が適切です。
③営業・対人関係作り
人の顔つきなどはなかなか変えられませんが、「クレショフ効果」を使えば、それが人に与えるイメージを十分に変えることが可能です。
例えば、強面だったり真面目で堅物そうに見られがちでも、スマホの待ち受け画面を「お花畑で遊んでいる犬」にすれば柔らかく感じるものです。


他にも、チェック柄の入った名刺入れ、鞄につけたキーホルダー、隠れキャラクターがプリントされたネクタイなど、ひとつ取り入れるだけでも印象は変わるでしょう。
もしそれが誰かにプレゼントされたものであったとしても、相手は勝手に、目の前にいる人がそれを買ったり、今日はそれを身に付けようと選んだりする姿を連想し、そこにお茶目さを感じるのです。
他にも、手渡す資料などがあれば、その書体をポップなものにすることも有効でしょう。
逆に、まだ年齢が若かったり幼顔だったりして、もっと落ち着いて信頼できるような印象を相手に与えければ、使い込まれたような色合いの名刺入れやペン、どっしりとした樹木を連想させるような色合いのネクタイ、堅い明朝体で書かれた資料など、小道具を使ったイメージ戦略が有用です。


このように、持ち物ひとつで人に与える印象をある程度コントロールすることが可能なのです。
認知バイアスを緩和するポイント
認知バイアスの原因は「経験や直感からくる思い込み」にあるので、対処すれば、一定は軽減できます。※ただ、人間である以上、全てを防ぐのは不可能です。
- 認知バイアスへの理解を深める
- 認知バイアス診断で思考の癖を知る
- 批判的に考え、第三者の意見を取り入れる
順番に解説していきます。
①認知バイアスの理解を深める
まず、認知バイアスの存在を知らなければ、防ぎようがありません。あなたがAIではなく人間である限り『なにかしらのバイアスはある』という認識を持ちましょう。



仮に「自分だけは大丈夫」と思っているのであれば、それこそがバイアスです。
②認知バイアス診断で思考の癖を知る
次は、自身が「どういったバイアスを持ちやすいのか」という思考の癖を知ることをおすすめします。ミイダスで診断可能ですね。(記憶だと、無料でできる診断は唯一のはずです。)
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ミイダスはもともと、転職市場価値を診断できるアプリですが、「バイアス診断ゲーム」をはじめとした心理学系の診断がいくつかあります。誰でも登録できるので、興味があれば試してみてください。
③批判的に考え、第三者の意見を取り入れる
認知バイアスに陥るのを防ぐために「なにごとも疑ってかかる」「自分と異なる意見を取り入れる」ことが重要です。 例えば以下のようにですね。
- 何が事実で、何が解釈か
- 別の観点から考えると、解釈は変わるか
- どのような反対意見があるか
このように、さまざまな角度から複眼的にとらえることができれば、認知バイアスに陥りにくくはなります。いわゆるクリティカルシンキング(批判的思考)というものですね。



第三者の意見を取り入れるのもおすすめです。利害関係がなく、都合が悪いことも率直に伝えてくれる相手にしましょう。
他の認知バイアス【一覧と具体例】
認知バイアスは、『様々な理由で認識が歪んでしまい、事実を正しく認識できずに不合理な(事実でない)認知をしてしまう傾向』を総称したものなので、いくつもの種類があります。
認知バイアス | 説明・具体例 |
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正常性バイアス | 自分に都合が悪い事実を信じない、現実を見ない 例:連帯保証人になったら友達が音信不通に。でもきっと大丈夫! |
確証バイアス | 自分の信念を裏付ける情報を探し求め、それ以外を見ない 例:大好きな彼氏はココが良い!ココも素敵! |
生存バイアス | 現在、生存している事例(成功例)しか見ない 例:成功した起業家を分析して、失敗例を見ない |
後知恵バイアス | 過去の事象に「それは予測可能だった」と勘違い 例:そのじゃんけん、チョキなら勝てるってわかったよね? |
自己奉仕バイアス | 自身に好意的な認識を持ちやすい傾向がある 例:成功は自分の能力が高いおかげ。失敗は外部環境のせい |
自己中心性バイアス | 自分を基準に、他者の心情や認知を推察する 例:自分の価値観を押し付ける、相手目線で考えられない |
感情バイアス | 感情的な好き嫌いが意思決定に影響を与える 例:性能は悪いが、つい好きなブランド商品を買ってしまう |
投影バイアス | 自分の好み、感情、価値観を他人に投影して認識する 例:まわりの人も自分と同じ意見、感情だと思い込む |
一貫性バイアス | 他者の1行動に一貫性があると思い込む 例:さっきナンパしてきた人、絶対いろんな女子に声かけてるよね |
保守性バイアス | 新しい情報を取り入れて、考え方や行動を変えることに躊躇する 例:革新的な新技術が出ても、使わず、従来のやり方に固執する |
バーナム効果 | 曖昧な特徴でも、自分に強く該当すると思い込む効果 例:占い師「あなたは◯◯な人間ですね」→そうかも! |
ハロー効果 | ある事象への評価が、他の目立った特徴に引っ張られる効果 例:清潔感がない人は、仕事もできなさそうだし性格も悪そう |
ダニングクルーガー効果 | 能力の低い人ほど自分を高く評価しやすい心理効果 例:もうこのゲームはコツ掴んだな!オレ最強かも! |
コンコルド効果 | 過去の投資を惜しんで、追加投資をやめられない効果 例:UFOキャッチャーを取れるまでやってしまう |
バンドワゴン効果 | 多くの人々が支持する意見や行動に信頼感を抱く効果 例:子どもが、他のみんなと同じオモチャを欲しがる |
フレーミング効果 | 同じ情報でも伝え方によって受け取り方が異なる効果 例:電池残量が「残り50%もある」と「残り50%しかない…」 |
アンカリング効果 | 最初に提示した情報が基準となり、その後の認識に影響を与える効果 例:商品の値下げ(大きく下がっているとお得に感じますよね?) |
アンダードッグ効果 | 不利な立場の負け犬を同情・応援したくなる効果 例:バレンタインに縁がなさそうな人にチョコをあげたくなる |
クレショフ効果 | 2枚の関係ない写真に、意味的な繋がりを感じる効果 例:「野菜」「不機嫌な人の顔」→野菜が嫌い? |
バックファイア効果 | 信念に反する情報を提示すると、裏目になる効果 例:大好きな彼氏を批判されると、かえって愛情が増す、守る |
真理の錯誤効果 | 繰り返された情報を真実だと思い込む効果 例:「最高品質」と効果を連呼するTVCMを繰り返しみて信じる |
リスキーシフト | 集団の中だと、よりリスクの高い意思決定をしやすくなる効果 例:赤信号、みんなで渡れば怖くない |
錯誤相関 | 二つの事柄に、相関関係があると錯誤(思い違い)すること 例:雨男/雨女、アイスの売上と溺死数 |
根本的な帰属の誤り | 他人の行動の場合、外部要因を過小評価してしまう傾向 例:遅刻の原因で、状況要因を考慮しにくい(性格のせいにしがち) |
アロンソンの不貞の法則 | 知らない人からの褒め言葉を、より嬉しく感じる法則 例:家族よりも、他人から認められると嬉しい |
代表性ヒューリスティック | ある対象の判断を、既知概念の代表的特性との類似性で判断する 例:「尻尾が丸い動物」→「うさぎかな?」 |
可用性ヒューリスティック | ある判断をするとき、すぐに思い出せる事例や情報から判断しやすい 例:馴染みのものや、人気ブランド、記憶に浮かぶ商品を選びがち。 |
選択のパラドックス | 選択肢が多ければ多いほど不満を感じやすくなる 例:レストランのメニュー、料金プランの種類など |

